スキップしてメイン コンテンツに移動

日記576


前回にひきつづき、鎌倉の海です。
砂の上の水流。その襞に、曇り空の反射。
微光、ほのかな。

きょうも、この日のことは書きません。

日々が過ぎるのは早く、書き留める時間は追いつけない。置いていかれる。この「遅れ」の中に、わたしがいる。どうやっても追いつけない“いま”とのあいだで、遅く遅く、ことばは右往左往している。いってしまった彼岸と、追いかける此岸との峡間に落とす。一語、また一語。つながらないあいだを、埋めてゆくように。

もはやない過ぎた時間と、あとから落としたことば。この差分がもし、なくなって、ひとつになる瞬間が訪れるとすれば、それこそがリアルなのではないだろうか。なんて、信じている。きっと、ことばをつづるひとは、誰もがそう。




7月14日(土)


知らないアイドルとバンドのライブに行きました。
ひとり。場所は、下北沢THREE。

出演、4組。
アイドル2組、バンド2組。

事前になんも調べず。

みんな知らない状態!!
そんなアホな客がいるのか。
いてもよいのです。
好奇心とすこしの勇気があれば。
なんだってたのしめる。

うわっつらだけの印象であれば、かんたんに「知らない」と言えてしまう。だけど少しでもつっこんでみるとたいてい、知っている“何か”とつながっている。あるいは「つっこむ」とは逆に、引いて俯瞰してみてもいい。「アイドル」という単語、「バンド」という単語、これだけの認識だって事前情報だ。「なにひとつ知らない」とは言えないだろう。それを言うなら「人間」ってだけでみんな知ってる。ちょー知り合いだ。みなさん人間ですね。それ、わたしの知ってるやつ!!

ちがっていたら、すみません。
ワン公さんやニャン公さんがみているのかもしれない。

AARHNND(あ、あれはなんだ)というバンドの主催による企画です。LUNCH SESSION DISCO(LSD)。土曜のお昼時だったのでランチ・セッションかな。出演は、乙ナティック浪漫ス、おとといフライデー、AARHNND、MOJAの4組が順に。

アイドルはしかし、背景を知らないと十分に乗れない部分もあったです、しょうじき。その場のパフォーマンスだけではなく、背景にある情報、プラス感情的な「入れ込み」を加えて補填しなければ。一方向的な圧倒というよりも、アイドルライブにおける「ファンの頑張り」ってあると思います。

わたしは距離を置いて様子を見てしまったけれど、トップバッターの乙ナティック浪漫スさん、「ふだんは寝ている時間」にもかかわらずのっけから全力のパフォーマンス、とても輝いておりました。




「乙ナティック浪漫ス」は知らずとも、生身の女性二人組が目の前で躍動していることは完全に伝わるので、それだけで最高にエモいのです。人間的なエモさ。しかも見た感じ、非常に失礼ながら、そんなに若くない。公言しているから、いいのか。「地下最年長アイドル」らしいのです。でもめっちゃアイドルでした。ファンの応援も部分的に激しい!わたしは3塁側にいる感覚が否めなかったけれど……。

「でもめっちゃアイドル」なんつう逆接は、いらないか。アイドルに年齢は関係なくていい。西城秀樹だって、ファンにとっては死ぬまでアイドルだった。死んでもアイドルです。アイドルは、ファンがいて、そう呼ばれる限りずっと、アイドルなんです。呪いです。本人にそのつもりがなくとも、「あなたはわたしのアイドルです」と言ってくれる相手が、ひとりでもいれば、もうアイドルです。

Ringoさん、Myuさん。
おふたりとも、ウエストが細くて、すごい。維持するための努力が垣間見える。背景知識が皆無でも、ステージひとつひとつに立つための、その背後にかける時間が伝わる。帰りに出口付近ですれ違いましたが、おきれいでした。

「大の大人がバカっぽい」というキャッチフレーズ。
大の大人がバカっぽくなるのもたいへん。
そして、バカっぽい大人は素敵です。
とても。とても。



つぎは、おとといフライデー




このユニット名は、まるで知りませんでしたが、やっているおふたりは知っておりました。いわゆるセクシー女優として有名な。紗倉まなさんと、小島みなみさん。みなみさんは、恵比寿マスカッツでもおなじみかな。

略称、おとフラ。「もしやこいつはロマンチックのしっぽ」という曲の作詞・作曲は柴田聡子さん。し、知っている。わたしのiPhoneのライブラリにこのひとのアルバムが2枚、入っているではないか。細かいところで関わっている石田ショーキチさんも知っている。

「私ほとんどスカイフィッシュ」という曲の作詞・作曲はトリプルファイヤーの吉田靖直さん・鳥居真道さん。インスタをフォローしているではないか。吉田さん、たまにタモリ倶楽部に出ているではないか。デイリーポータルZのプープーテレビにも出ていたではないか。呂布カルマとMCバトルをしていたではないか。

「私ほとんどスカイフィッシュ」のRemixにはTOKYO HEALTH CLUBが参加している。ライブハウスに来る直前まで聴いていたではないか。わたしのTwitterのプロフィールにある「あたし階段降りるたび外反母趾が痛いのが悩み」という1行は、TOKYO HEALTH CLUBの楽曲「CITY GIRL」のリリックではないか。

「乙女の炎上」という曲をつくったのはマキタスポーツさん。東京ポッド許可局を何年も前から聞いているではないか。ああ、このアイドルユニット(+周辺)については、だいたい知っていたらしい。無知だったのは「おとといフライデー」の看板くらい。

実物の小島みなみさんは、ものすごく華奢でした。紗倉まなさんは、思っていたより、しっかりした体型でした。みなみさんの横にいたせいか……比較的。健康そうで、いい感じ。女性に限らず、あんまり細いひとを見ると、どうもうざいお母さんのような心情がうずいてしまいます。心配になる。わたしの中の母性がうずくようです。

おとフラのライブは、まさにファンたちと、ガンガンもりあがっておりました。曲中のセリフで「いっちゃうー」と叫んだときに、ファンの男性が「俺も」と書いてあるうちわを高々と掲げていたのがおもしろかったです。うしろで見ながら「いっていいよ」と思ってました(お前の許可は求めていない)。

これも曲のセリフで「わたしの本、買ってね。印税入るから」と言った、このときの紗倉まなさんの眼光が印象的でした。黒目が多く、かわいらしいひとみをしている彼女が一瞬、白目がちになったような。黒目の範囲がぎゅっと狭まったような。意識的なパフォーマンスだとしたら匠の技です。

小島みなみさんの、ふわふわとしたMCもよかったです。
透明感と浮遊感を漂わせる御方でした。

おとといフライデーの終了と同時にお客さんもぞろぞろいなくなる感じ、切ないと思いましたが、べつの客層がまた交代するように入ってきたから、安心いたしました。客層によってファッションから髪型からしてちがうの、おもしろい。文化がちがうみたい。ちがう部族。ちがう人々が交差して同居して。おもしろい。

わたしは後方で定点観測……。
これでアイドル2組は終了。



三番手、AARHNND。




もらすとしずむの田畑“10”猛さんがやっている別バンド。ここが唯一の接点で「ぜんぜん名前を見てもピンとこない出演陣のライブに行く」ということをしました。AARHNNDは、長らく活動を休止していて、こんかい復活ライブだったそうです。知らないバンドの復活を祝う。復活はなんでもめでたい。酒が飲める飲めるぞー酒が飲めるぞー。

それにしても、AARHNND。
いちばん不思議な時間でした(笑)。

ドラムの方が女性かと思いきや素敵な(鋼の)オカマさん。知らないけれどメンバーが変わったみたい。途中でビーチボールふくらませ大会が始まりました。お客さんふたりと、10さんの勝負。口で先に丸くふくらませたひとの勝ち。Vo.のsayanuさんが実況&応援。余裕で10さんが勝利をおさめ、ひとこと。「芸人ってむずかしい」。

轟音に包まれながら基本的にブラブラしている10さん。電気グルーヴにおけるピエール瀧っぽさがよかった。なんかもうあんまりよくわかりませんでした。ドラムがオカマで美しくてかっこよすぎるし、ボーカルは宇宙から直送みたいな奇声を発しているし、ジャージの大男がブラブラうろついてビーチボールぶん投げてくるし、こんなのわかろうとするほうがどうかしている。

わたしにとって「わからない」は悪い感想ではありません。「おもしろい」とか「もっと見てみたい」とか、そういう意をふくみます。「わからなくておもしろい」はありうるけれど「じぶんがわからないからダメ」は幼稚で恥ずべき意見だと思う。

そんな中、初見でもいちっばん演奏だけでわかりやすくブチ上がったのは、トリを務めたバンドでした。AARHNND終了後のインターバルが長くて、わたしは「帰りたい病」の重症患者なので危うく帰りそうになったけれど、帰らずにいてよかった。「帰りたい病」は損しかありません。現在、治療に励んでおります。家にいても帰りたい。いずこかへ。これはたぶん死に至る病だから、治療が必要。




ひとりいずこかへ旅立たずに観てよかったバンド。
初心者にもやさしい!と思う!

その名も、MOJA

男女ふたり。
Bassと声のHARUさん、Drumのマスミさん。

自然に手があがって、声もあげてしまう。
初見でもまっすぐに圧倒される。ひと癖あるアイドルとバンドの変化球がつづいてさいごに2ピースというシンプルな形態の重低音がストレートにドーンって感じでした。多少の変態っぽさもいい。みんなひと味ちがう。圧倒的なもの、そしてなるべく削がれたものにわたしは惹かれます。認識がしやすいけれど、浅薄ではない厚みと深み。そして重み。

繰り返しますが、帰らなくてよかった。ひとりで行こうとする場所は狭い世界。わたしは特に、壁に囲まれた隘路にならひとりでどんどん入っていける。最終的には、どこへも行きたくないという思いが根強くある。ひとつの場所で、静かに息をひそめていたい。そのほうが呼吸はしやすい。なんにもしたくない。隘路で塞がってうだうだとつぶやくことばにも、価値はあると思う。

でも、他人に連れ出してもらえる世界はとてつもなく広大で、解放的。そちらの空気も、眺めも、時間も、なんにも知らなくても、すばらしいと思えるから、またひとと会える。まだ生きている。ことしに入って、わたしを連れ出してくれるひとや、ものごと、文化と、たくさん出会えた気がする。1月の始めから、もうずっと。ありがたいことです。

MOJAは演奏のヤバさに加え、あいまにしゃべるHARUさんのふつうさがまたかっこいい。一見してふつうのひとがヤバイことをやっているの。いわゆるひとつのギャップ萌えです。人間はみんな「一見してふつうのひとがヤバイことをやる」瞬間をもっていると思うけれど。だって、そのための「ふつう」でしょ。わたしだって、ヤバくなるためにふつうでいる。

いいイベントでした。喉の調子が悪いから自重していたけれど、結局は大きな声をあげてしまった。ゲホゲホ咳き込みながら帰る。お金があんまりなくって演者やライブハウスにあまり還元できず申し訳ない。少し稼げるようになれれば、好きなものだけに還元しながら生活をしたい。

わたしをどこにも帰れなくなるほど遠くへ、連れ出してくれるものにだけ。できるだけ知らないところに。「帰りたい病」の治療費を稼ぎたい。知らない場所で、ちゃんと、迷子になるために。





コメント