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日記590


つぶらな瞳とはこういうもののことでしょう。





歯医者に行くと落ち込みます。かならず歯垢が赤く染まるやつを歯に塗りたくられて「もっとちゃんと磨けよヘイヘーイ」と手鏡で見ることを強要されるからです。そして歯医者で手鏡にうつるじぶんの顔を見ると、かならず鼻毛が出ているからです。

鼻毛は気づかず野放しにしていたじぶんが悪い。でも歯垢は、どんだけ念入りに磨いても赤いところが残っています。歯並びの問題や、ふつうの歯ブラシだけでは届かないところがあるのだから仕方がありません。磨き方は何年か前に通った歯医者さんの言う通りにしています。それでも一部が「磨けてない」と言われ、指導され、特殊な歯ブラシを勧められる。これが毎回のことです。

「磨けているほう」とも言われました。しかし、完璧ではない。歯科衛生士の方を「ぬぬっ!?こやつ……か、完璧だ……!!」と感嘆せしめるには、メイン歯医者の前に、サブ歯医者で磨いてもらうしか方法がないと思う。つまり、2つの歯医者に通うのです。サブ歯医者でもブラッシングの指導をされるならば、サブサブ歯医者に頼るしかない。さいきんはクリスマスもイブイブを祝うほどですから、サブサブ歯医者に通い始めるひとがいても不思議ではありません。歯医者はそこらじゅうにあります。とにかくわたしはブラッシング指導を回避したいのです。

「ふだん通り磨いてみてください」と言われても、ふだんは音楽を聴きながら奇妙な振り付けのダンスの一貫として楽しく歯を磨いているのだからそこまでしなければ「ふだん通り」ではありません。ダンスまでいかずとも、座って歯を磨くことはないんだ。せめて立たせてほしい。立てば自然にステップが始まるでしょうから、もうふだん通りです。

しかしそんなことは望む間もなく、診察台の上で、右手に歯ブラシを手渡され、左手に手鏡を持ち、なんとなく磨き出すと初めて歯を磨く生き物のようにぎこちない動きになりました。ふだんは左手で磨いていたことに気がついて「左でした」と持ち替え。しかし左でもなんだかぎこちない。「右だったかな?」と、また持ち替え。いや、右はさらにぎこちない。「やっぱ左か」とふたたび持ち替え。不思議な挙動の動物をしげしげと眺めるようなようすの歯科衛生士の女性。やはり、まず好きな音楽をかけてリズムを生み出さないと歯磨きが始まらないらしい。どうしてもぎこちない。

それに加えて恥ずかしさもありました。歯磨きを観察されることなんて、日常生活ではありえない。汚れを払うのは、秘すべき行為です。「へーそうやってやるんだー」みたいなふうに思われてそう。お尻の拭い方を観察されることとおなじです。両者とも身体にこびりついた汚物を取り除く行為ですから、おなじといえばおなじです。これ以上に恥ずかしいことはない。やめてほしい。照れる……。そんな堂々と見ないで。せめて顔を両手で覆って、見ていないフリをしつつ指の隙間からチラチラみていてほしい。フリでも雰囲気がだいじだから。こういうのは。

いま5年前に歯医者へ行ったときの日記(非公開)を読み直したら「日常的な動作という意味では、人前で尻を拭うのと同等」と、ほぼ同じ内容のことを書いていました。ロジックは微妙に変化していますが、発想が5年変わっていないじぶん。文体は5年前よりポップになったみたい。

歯科衛生士さんとの羞恥プレイが終わって、べつの男性医師からまた歯ぎしりの説明を受けました。レントゲンで見ると、微妙に骨に隆起がみられるそう。歯ぎしりをつづけていると、歯が摩耗するだけではなく、骨が隆起するという世にもおそろしい説明。昼間の歯ぎしりだけでは考えにくいから、眠っているときもしていますね、と。してる、らしい。ひどい場合、マウスピースをつけて寝るハメになると。わたしは、まだそこまでではないそうです。セーフ。

歯は日常的なケアが重要な部分ですから、問題があると「日常を改めてください」という話になっちゃいます。まいにちの歯磨きの仕方や時間や回数から、顎にちからを入れないことから。3回ほど通って「さいごにテストします」みたいなことを言われて、熱心な歯医者さんなんだろうけれど、しょうじきだるい……。おちこむんだろうなあ。まあいいや。虫歯はまったくなしだったので、それだけでも。良きことかな。





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