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日記607


ラスト歯医者の帰り道、苔が輝いていました。こういうもので、“ああよかった”とぜんぶチャラになる。単純な感じでいい。これで十分ではないか。夕陽に照らされるきれいな苔がありました。これでつながれる。首の皮一枚。おおげさじゃないんです。ぜんぜん。

歯医者の受付で「また来年の1月あたり検診に」と言われる。いま予約しますか?と尋ねられ「先はわからないから、大丈夫です」とことわる。予定がないことに幸福を感ずる。逆のひともいる。予定のない、まっさらな日々はつらいという。それはあまりわからない。ひとりで歩いているだけでいいのに。何かしろと言われる。「決めろ決めろ」と。最後はすでに決まっているのに。


 生きていたくもなければ、死にたくもない。この思いが毎日毎夜、わたくしの心の中に出没している雲の影である。わたくしの心は暗くもならず明るくもならず、唯しんみりと黄昏て行く雪の日の空に似ている。
 日は必ず沈み、日は必ず尽きる。死はやがて晩かれ早かれ来ねばならぬ。


永井荷風「雪の日」

以前も引用したと思う。どっかで。
よくこれを思い出す。
晩夏です。

コメント

anna さんのコメント…
随分長いこと歯医者通ってますねー。
nagata_tetsurou さんの投稿…
お盆やすみを挟んだので2週間ほど行かない期間があって、通ったのは3回か4回くらいです。日本の歯医者さんはやたらと通わせるのがお好きです。これといった治療箇所もないのに。いらんことをさせられている気もします。でも磨いてもらえると気持ちがすっきりしますね。