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日記643


左の耳たぶにほくろができていた。なにこれおしゃれ。ピアスいらず。初めてほくろでいい気分になれました。細かくどんどん増えるからこわい。やがて人間から丸く巨大なほくろへと進化を遂げるのではないか。そうなればもうコロコロ生きるしかない。それは進化なのか。退化なのか。わかりませんが、かつて人類がほくろであった時代がないことを考えると、いずれにせよあたらしい事態であることは確かです。ニュータイプです。新シーズン到来です。

このところようやくはっきりと寒くなってきて、いよいよ冬のおとずれかという感があります。乾燥が気になります。リップクリーム。ことし、一本目。口の端がよく荒れてしまうのは栄養が足りていないからでしょうか。虚弱でいるといずれほくろにこの身体をあけわたすことになりかねない。支配されてしまう。人生は、ほくろとわたしとのせめぎあいです。ここの更新頻度が下がり気味なのも、ほくろが優勢であるせいです。わたしが引っ込んでいる。

というか、もともと前に出るタイプではないので先に行きたいものがあれば譲ってしまいます。どうぞどうぞ。自分はあとまわし。最後尾からの眺めも壮観なものでしょう。なによりうしろに誰もいない場所がもっとも安心です。背後から鈍器で一撃くらわされる心配がない。背中を撃たれることもない。つねに撃たれることは想定しておかなければなりません。この街は戦場だから。戦場のガールズライフだから。

さいきん歩きながら意識して知らない道によく入ります。撹乱です。近所でも入ったことのない路地は多い。迷っても進んでいればいずれ、手探りの道といつもの道とがつながる瞬間に出会える。ひとつ理解を得られたような感覚があります。あーここがここにつながってなるほどー、と。エウレカ。街を歩くことも、コミュニケーションのひとつではないでしょうか。その街との対話。まだ見ぬあなたを知りたい……。愛の予感です。

わたしはごくごく身近な場所のことも、ほとんど知りません。入ったことのないお店、見たことのない公園などがたくさんあります。意識は慣れてすぐに曇ってしまう。横道にそれようとしなくなる。自分から同じ道を同じようにたどっておいて積極的に退屈してちゃ世話ねえな。

同じ道でも、たとえば昼間にしか歩いたことのない道を夜に歩いてみるだけですこし変わる。あるいはBGMを変えてみる。ふだんまったく聴かないクラシックをSpotifyで流しながら歩く。「曽我部恵一による選曲集」というプレイリストからモーリス・ラヴェルをたぐりよせる。いつもの自分とはほど遠い、変わった演出ができる。

そうそう、演出ということ。「人生の重要な場面で、なぜ重々しい音楽が鳴ってくれないのだろう」とつねづね思っていました。どれだけ待っていても鳴りはしないのです。なら、てめえで好きなように鳴らしてしまえばよい。

もちろん演出なんかしようのない偶然に、いきなり横っ腹をえぐられることも多い。不意に腹をえぐられたとき、瞬時にいい感じの演出ができるようふだんから鍛えておくことが肝要です。そのためには、できるだけ幅広く雑多な文物に触れておく必要があるでしょう。とっさのリクエストにも迅速に対処するため。ラヴェルのピアノがマッチするシチュエーションも、ある日とつぜん訪れる。先のことはわからない。


けっこう前から、EyeEmというドイツ発のアプリを使っています。写真をアップすると、審査のうえでマーケットに出してくださる。いわゆるストックフォトみたいな。全体としてアート寄りの雰囲気に物怖じしてしまいますが、わたしはわたしで変わらぬ調子の写真を出しています。売れても売れなくともよいのです。値段は買う人がつけるらしい。売れたらめっけもん、くらいの感覚です。

たとえばためしに、自分の文章が売れるかと考えてみるとかなりの躊躇があります。「売れないだろう」と否定したい気分もある。でも写真を売りに出すことに躊躇はありませんでした。写真は、単純に好きです。楽しい。世に広めたいような思いもあるかもしれません。このゴミ箱とか……素敵やん。中がいっぱいで入らないから、上に置いたんですね。穴から飛び出すペットボトルもいい。ものすごくどうでもいいんですけど、この“どうでもよさ”が売れたら笑える。いたずらっぽい気持ちがあります。おもしろいと素直に思える。無思考で撮っている。わたしと写真との関係は、とても素直です。




コメント

anna さんのコメント…
おおっ!クラシック音楽ネタきました。
私は、ラヴェルとか彼のお師匠さんのフォーレとかのフランス近代音楽が大好きです。
でも、きっとラベルと書くとまた怒られるんだろーな。
nagata_tetsurou さんの投稿…
annaさんは、クラシック畑でクラシック音楽を耕す方なのですね。フランス近代音楽農法なのですね。ラヴェルにも影響を与えたというエリック・サティはお好きでしょうか。2015年の夏ごろ、渋谷で「エリック・サティとその時代展」を観ましたよ。五線譜のあいだに詩のようなことばを書くお茶目なおじさんです。

「ラベル」でも文脈を読めば通じるので大丈夫です。ただフランス語の発音を聞くと「ハヴェゥ」が原語に近いのかなーと思います。でもこれでは「ラベル」よりわからない。忠実にするなら「Ravel」と書くほうがよいですね。