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日記766



ひつじ。




一ヶ月ほど前から、利き手ではない左手で納豆を混ぜている。納豆はまいにち食べる。すこしずつ器用になってきた。うれしい。と感じて、気がついた。これってあれだ。もういちど引用しよう。『うつ病治療 ―現場の工夫から―』(メディカルレビュー社)より、神田橋條治氏の発言。


 僕は、「いまから薬を減らしてみようと思うので、ニッパーを買ってきなさい」と。「錠剤を半分に切るためのものだから、手芸用のニッパーがいいですよ。包丁だと、錠剤を切った時にどこかへ飛んでいったりするからね」って。それで半錠ずつ減らしていくんだけど、同時に、上手にニッパーで半分に切れるようにトレーニングもする。うつ病患者というのは、熟練する、上手になるという志向ができれば、それがポジティブ・フィードバックになるような人が多いです。名人と言われるような人は、大抵うつ病になるような人です。技術の向上が重要な意味合いを持っているようなパーソナリティの人。そういう人に、ちょっとシンプルな精神療法を試みているんだ。p.63


「左手で納豆混ぜるの上手になってうれしい」みたいな、「ちょっとシンプルな精神療法」ってこういうことなんだ。いまのわたしは「うつ病患者」ではないけれど、つねに憂うつな気質ではあるので無意識にケアしていたのかもしれない。

たしかに思い返すと、自分のなかで技術の向上が重要な意味合いを持っている気もする。ものすごく腑に落ちたきょうの夕食だった。ものすごく腑に落ちた。

 

 

 

4月15日(木)

 

電車のなかで、目の前にいた若い女性のカバンに「圧強め」というバッジがついていた。「圧強めなんだ……」と思った。ここんとこ、まいにち電車のなかのことを書いている。電車のなか大好き人間みたいだけど、どちらかといえば嫌いだ。嫌いだからむしろ強く記憶に残ってしまうのかもしれない。

20代後半くらいのサラリーマンふたりが同僚の転勤について話していた。ひとり広島に飛ばされたという。「俺もワンチャン大阪行くところだったよ。残れてよかった」と。若い人はよく、「ワンチャン」と言う。「one chance」の略。好機をあらわす表現かと思いきや、悪い可能性にも使うらしい。ひとつ学んだ。残れてよかったね。

駅のホームで、男子大学生ふたりが「就職、誰よりも早く決めたいね!」と力強く宣言していた。「がんばれ!」と思った。知らない人の会話を聞くと自然に応援したり、幸福を願ったりしたくなる。自分でも意外なほど、自然に。きっと知らないからだ。知らなくていいから。祈るためには無知がひつようなのだろう。

 

三鷹の古本屋、りんてん舎さんのtwitterでギュスターヴ・ティボン『星の輝きを宿した無知』(みすず書房)が紹介されていた。

 

 



ほんとうに、なんというタイトルだろう。




コメント

anna さんのコメント…
「圧強め」バッジ欲しい!と思って調べたら、自己主張バッジっていうガチャガチャのシリーズものの景品なんですね。「花粉症」とか「透明人間」とかもありますね。面白い~。
nagata_tetsurou さんの投稿…
ガチャガチャなんですね、知りませんでした。「腰痛持ち」「尊い」とか、いろいろありますね。わたしは「パリピ」がほしいです。日記には書いてないけど、じつは毎晩シャンパン開けて「フ~」ってやってます。
ひとりで。