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日記945


 十一月二十三日
 払暁四時半の入港。それでも妻は迎えに来ていて、埠頭の照明と船からの明かりの中で、しきりに傘を振っていた。小雨が降っていた。深夜の町歩きは危険だからといつも注意しているのに、妻はやっぱり迎えに出て来てにこにこ笑っている。早朝のタクシーはいよいよその数が減って港では乗ることができないまま、寝静まった町をふたりで久保薬店のあたりまで歩き、道端でしばらく待っていてやっとつかまえることができた。

 畑が奇麗に整理されていた。オクラが少なくなり、なすとトマトが目立っている。まえのものを抜きとって土をならしているところもあった。門のそばの小菊の群れ花も色が褪せ、すがれてしまった。
 空はくもり、なんとなくうそ寒い感じがして冬の気配がしのび寄っていたから、電気ごたつの机を出して、その上で仕事をすることにした。
 旅行のあとは、不在中の受信物や新聞にひと通り目を通す作業が控えているが、不毛な習慣だと思いながらもどことなくたのしい仕事なのだ。

 

島尾敏雄『日の移ろい』(中央公論社、p.163)より。

昭和46年(1971年)11月23日。この本は、いまはもうない古本屋さんで最後に購入したもの。『続 日の移ろい』とセットで100円だった。ほかにもおもしろそうな本が投げ売り状態で、後日リュックでも背負ってまた来ようと思っていたら店がなくなっていた。事前の知らせはなく、急になくなっていた。「雰囲気で察せよ」ということだったのか……。後日、twitterでその店の廃業に触れながら、「あの宝の山はどうなってしまったのだろう」と書き込んでいる人をみかけて、ちいさく頷いた。


  

11月23日(水)

朝から晩まで雨。さむい。父方の祖父(故人)の写真を整理する。施設の祖母に見せるため。探したら大量に出てきた。おもしろいので、インスタにすこしずつ載せようと思う。いちおう父の許可を得た。仏壇にも手を合わせた。

あたらしいアカウントから、ぼちぼち。1日3枚かそこらスキャンする。不毛な習慣が増えていく……。確かに不毛ではある、不毛ではあるが、どことなくたのしい仕事なのだ。

https://www.instagram.com/g3no_photo/

 

 

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