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日記975


 

 

12月23日(金曜日) 晴れ

 朝からカウンター。
 3人の女子大生が目録ホールをウロウロして、そのうち額を寄せ合って相談をしてからカウンターにきて、これを調べるのはどのようにすればよいか? とコピーを差し出す。「天草版平家物語」などが並んでいる。よく見ると請求記号が書きこんである。これはどこの図書館の請求記号かと聞くと、大学図書館のだという。この図書館で何をお調べになるのですか? 「中世の動詞の研究」という題のレポートをまとめなければならないのだという答え。それなら日本語の研究所の置いてある書架に行ってよさそうな本を選んで、読んでレポートをまとめたらいいのではないかと提案すると、このリストに挙がっている本を手にとって調べて書くようにいわれているので、まず、この本を見たいんです。この本を、この図書館で見るにはどうしたらいいでしょう?
 図書館での書名カードの引き方や本の調べ方は習わなかったのですか? と聞くと、1年生だから知らないと胸をはる。それは2年生になったら習うことになっているともいう。書名カードのところに連れていって、書名カードの引き方や資料請求票への記入の仕方、本の探し方などを教える。
 これくらいのことは、大学の授業の最初に教えたらどうなんだ、と図書館の利用者教育もしなくてはならないだろうが、結局、必要にせまられなくては覚えないし、分野毎の資料の特性と探し方があるから、文学なら文学の授業の最初の時間に教えたほうが効果的だと思う。もっとも、こうした基本的なことがわかっていないんじゃないかと思うような大学の先生もいたりするから、どれだけ効果があるかわからないけれど。
 ついでにいっておくと、学術論文の注や参考文献に記載されている書誌記述には不備なものが多すぎる。不備なもののために学生や後進の研究者がわからなくてウロウロしている。ひどい時間の無駄だ。

カウンター①:続いて中年の女性がきて、フランス語で書かれた聖書はないか?
 すぐに洋書の分類目録の1935のところに行って、カードをめくって “La Bible” のカードを示す。これです、というので資料請求票の書き方と3階の人文科学室に行ってからの本の探し方を案内する。
カウンター②:学生。また、コピーを差し出して、この赤線を引いてある本はないかと指差すので、見ると「リーグル美術様式論」と書いてある。もう、何かお調べになりましたか、と尋ねると、書名目録は調べたがなかったという。じゃ、著者名目録に挑戦してみましょう、と著者名目録のところに行って、リーグルで調べてみると、あった。『美術様式論』、これですね! と示すと、そうですといって、メモをとりはじめる。
電話:ダヌンツオの書いたものはどれくらいありますか? と区立図書館。
 著者名カードで“ダヌンツオ”で調べると何冊かある。それを紹介する。あとで、人文科学室の「文学分出カード」も調べてみるべきだったと思い、人文科学室に行って見せてもらうと、やっぱり何冊かある。もう一度こちらから区立図書館に電話して、追加の紹介をする。
●この日の質問件数、カウンター63件、電話126件。

 

 

大串夏身『レファレンスと図書館 ある図書館司書の日記』(皓星社、pp.129-130)より。1988年12月23日。もともと、94年に日外アソシエーツから出た本。2019年に皓星社から復刊された。淡々と調べごとに答えまくる司書さんの日常。ちょっと古めで地味な日記だけど、おもしろかった。めっけもんでした。

 

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